三住建設有田さんと中野さんの新しいプロジェクトです

三住建設有田さんと中野さんの新しいプロジェクトです(ガバナンス掲載)

相談内容は多種多彩

2017年2月に開設された大東ビジネス創造センターD-Biz。大阪府大東市は大阪市、門真市、東大阪市に近接し、都市の魅力も自然の魅力も感じられるエリアで、工業地域と住宅地域が接近し、製造業から飲食などのサービス業まで多様な中小企業が活躍している。

 そんなそんなD-Bizに舞い込む経営相談も多種多様だ。売り上げの相談から人材採用、SNS発信の相談まで様々だが、最近多いのが創業相談。自宅でのネイルサロン、お弁当屋さん、設備会社など様々な業態の創業相談が寄せられている。22年は35件の創業に携わったが、D-Bizでは、創業のサポートだけでなく、事業を継続していく確率をどう上げていくかを一緒に考えることも大事な役割だと考えている。

今回紹介する中野淳花さんは建設会社でインテリアコーディネーターとして活躍し、その経歴を活かして創業したいとD-Bizを訪れた。会社員時代は100件以上の現場経験があり、実績は十分。個人でどう集客するかが課題であり、まず一緒にセールスシートをつくった。

強みを言語化する

これは、中野さんの強みを言語化する作業である。会社員としての現場経験に加えて、子育て&主婦の期間をブランクとして捉えるのではなく、魅力として捉えてみた。住宅の建築やリノベーションには大きなお金がかかるのに、買う側(特に女性)にとっては分からないことばかり。売る側・買う側両方の立場がわかる中野さんにはきっとそこに役割があるはずだ。そこで、その役割を表現して、インテリアコーディネーターに代わる肩書きを考えることにした。それが中野さん自身のキャッチフレーズになるように。

 いくつかの案の中から一緒に選んだのが、「欲しかった間取りアドバイザー」。中野さんも気に入り、早速営業活動に入った。

プラスの一手

僕の方でも、お付き合いのある市内の三住建設さんに今回のプロジェクトの相談に行った。同社の有田三千子社長からは、中野さんの想いや考え方に、売る側として理解を示してもらうだけでなく、お金の流れについての注意点など、具体的なアドバイスをいただいた。

 後日、有田社長と中野さんの打ち合わせをセッティング。三住建設でも「欲しかった間取り相談所」を営業窓口として開設することになった。有田社長の最近の想いや仕事の状況を共有しながら、「欲しかった間取り相談所」の売り出し方、発信の仕方を考え、営業窓口だけではなく自社の魅力を伝える窓口に変えることができないか打ち合わせを続け

る。

 これは中野さんの起業から始まった今回のプロジェクトの強み・魅力を再度確認し、共有する重要な作業である。有田社長の最近の仕事や力を入れていることを聞きながら、「欲しかった間取り相談所」と通底する思いを探し出す。きっと有田社長が力を入れていることに繋がるはずだ。

 打ち合わせの中から突破口が見つかった。辿り着いたテーマはトイレ。有田社長が特に力を入れていることだった。女性経営者らしい視点である。さっそく有田社長、中野さん、D-Bizのチームでコンセプトを固めていく。

大事なのは「おトイレ」

こうして立ち上げたのが「おトイレプロジェクト」だ。今、女性の社会進出が進み、中小企業などの製造業の現場でも「ものづくり女子」という言葉が聞こえてくるほど、女性の関心が高まっている。実際、自動化やデジタル化の進展などにより、工場=力仕事という現場は減少する一方、繊細な品質管理やスケジュール管理などの細かな作業が増え、男女の区別なく働けるようになってきた。また、女性活躍という社会的な要請なども踏まえ、経営サイドも女性の雇用に積極的になりつつある。

 そうした中でネックとなっているのがトイレの問題だ。小規模な事業所になればなるほど、トイレはまだ男女共用であることが多く、女性が安心して過ごせる環境とはいえない。独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の調査(*)によれば、従業員29人以下の事業所では4割近くが男女共用のままだという。

 そこで「欲しかった間取り相談所」では「おトイレプロジェクト」として、市内のいくつかの事業所に女性トイレを設置。女性が利用しやすいだけでなく、工場全体の清潔意識が高まり、リフレッシュやリラックスなどの面でも大きな効果があったという。

 プロジェクトでは、こうした結果を踏まえ、「中小企業には、SDGsも大事、DXも大事。でも一番大事なのはおトイレ!!」をコピーとしたプロモーションを展開。「欲しかった間取り相談所」で無料相談を受け、中野さんがインテリアコーディネーターとして、働き場所のアップデートなどを提案している。

グッドビジネスのお手伝い

ひとりの女性のチャレンジが、女性経営者を巻き込み動き始めた。リリースや口コミですこしずつ声がかかるプロジェクトに成長している。もちろん、まだまだ始まったばかり

である。

 D-Bizに相談に来るすべての事業者さんは、皆さん一生懸命で前向きである。そのエネルギーを売り上げに変える「梃子」を考えるのが私たちの役目である。

新商品・新サービス・新販路、そして今回のような連携。もちろんどの「梃子」が効くのか試行錯誤の連続だが、無料で出来るトライを提案するのがDBizのモットーだ。

 1回目のトライで成果が出ることも、何回かのトライでようやく成果が出ることもある。

 毎日の1時間、1時間が経営者との作戦会議だ。全国のBizで、「今日もあの手この手でグッドビジネスのお手伝い」が行われている。

支援のポイント

どのようなビジネスにおいても差別化は重要な要素である。他には無いなど何かしら選ばれる理由がないと、集客は難しい。

 本事例の特筆できる点は、最適なコンセプトやネーミングをもって両者にとって独自性のある新ビジネスができただけでなく、それが生む価値を、具体的にどういう「ターゲット」やどうい「シーン」でサービス提供できるという絞り込みも効果的にできていて、ビジネスの可能性をより高めているところである。 小出宗昭(中小企業支援家)