全国のBiz発信! 取引先の売上アップ好事例

全国のBiz発信! 取引先の売上アップ好事例 

DBiz(大阪府大東市)繁田智雄センター長 

弱みこそ強みととらえる

事業者の思いや事情に

根差す強みを見出し

長期的な売上向上を支援

大阪府大東市は大阪市・門真市・東大阪市といった都市に囲まれており、奈良県とも隣接する。その好立地を生かし、ものづくりのまちとして栄えてきた。 

 そんな大東市に設立されたのが私たち「大東ビジネス創造センターD ‒ Biz」だ。経営者と直接戦略を相談できるという「Bizならではのスピード感」を大切にし、地域の事業者支援に取り組んできた。前回掲載時(2022年7月15日号)に紹介したとおりである。 

 私がセンター長に就任して4年目となる。様々な相談に応じる中で、中小企業支援の本質について常に考えてきた。結論からいえば、私はそれを「正直は最大の戦略である」という言葉の中にみた。 

完調品不使用の弁当は営業先で一蹴 

宅配も行う弁当屋「穏和キッチン」の藤本千砂子さんが相談に来たのは、2022年12月のことだ。同年7月に創業したものの売上が伸び悩んでいるという。 

 藤本さんは以前、介護施設等に向けた給食・弁当製造を手がける会社に勤めていた。コストばかりを気にし、健康への影響を軽んじる事業方針に疑問を感じて退職。「完全調理品を一切使わない弁当作り」を掲げ、創業した。 

 完全調理品とは製造拠点で一度に製造され、事業者向けに販売される加工食品のことだ。人手が削減できるため、弁当製造の現場で使われることが多い。便利だが、藤本さん曰く「誰が作ったかよく分からないもの」である。 

 穏和キッチンでは、弁当に入っている料理はすべて藤本さんの手作りだ。価格にもこだわり、1食500円(現在は550円)に抑えた。私が実際に食べたところ、味も抜群に良かった。 

 ところが売上は振るわなかった。市内の工場に売り込んだこともあるが「高すぎる」のひと言だった。健康経営を標ぼうする事業者に営業しただけに、藤本さんは肩を落とした。健康経営をうたいつつもコスト最優先のさまに、かつての勤務先を重ねた。 

工場の声だけを聞けば、手間がかかっているぶん価格が高い点は穏和キッチンの弱みといえるかもしれない。とはいえ、「大切な食事だからこそ手間をかける」という藤本さんの思いは美しい。 

 そこで私は藤本さんのこだわりを文字にして発信しようと決め、まずはホームページから着手した。藤本さんが弁当に込める思いを言語化し、記載したのだ。 

 またホームページにはInstagramと連動する仕組みを搭載した。弁当を一人で作る多忙な藤本さんでも、SNSなら更新しやすい。 

 情報発信の場をSNSに絞らなかったのは、企業理念をPRするうえではホームページが最適だからだ。SNSは速報性があるものの、リッチさでホームページに劣る。 

 こうして情報発信の態勢を整えたところ、「安心安全でおいしい」とのクチコミが広がっていき、1日10食しか売れなかった弁当が60食ほど売れるようになった。 

 そんな折、ある管理栄養士から電話が舞い込む。曰く、その管理栄養士がメニュー作りを担当している部活動向けの弁当を作ってほしいとのことだ。 

 これだけではない。部活動用の弁当がさらなるクチコミを呼び、社会人アメリカンフットボールチームの管理栄養士からも受注が舞い込んだ。 

 藤本さんは現在、日々の弁当作りに加え、部活動向けに週50食〜60食、アメフトチーム向けに週30食〜40食を作っている。パートを増員し、製造拠点も拡大したところだ。 

ローテクな製造工程が思わぬ強みに 

もう1つ事例を紹介したい。「株式会社いとしご」は犬用フードのオンライン専門店「HAVEPET」を手がける事業者だ。基幹商品の犬用ジャーキーは完全無添加で、犬にとって食べ応えがある形状にするなど、代表の中川和彦さんは犬ファーストの商品作りに取り組んできた。 

 初めて中川さんが相談に来たのは2022年9月だ。犬用フードを作る事業者が一堂に会するイベントに出品したところ試食した犬の反応が上々で、月商100万円にまでなったためさらに売上を拡大したいという。 

 とはいえ、中川さん自身は「なぜ自社商品が犬に大好評だったのか判然としない」という。近年の犬用フード市場には無添加品が多くあり、イベントでも出品があったことから、それ自体が差別化要素だったとは考えにくい。 

 そこで改めて詳しい製造工程を掘り下げたところ、中川さんは個人事業主で、まだ注文数が少ないゆえに、商品を注文が入った都度加工していると分かった。 

この点から、いとしごのジャーキーは一度に大量生産されて包装される他社製品よりも新鮮で香りが強く、それが犬に好評で売上につながっていると結論付けられた。私からは、ブランディングにおいても「無添加」や「食べやすい形状」に加え、「新鮮さ」という強みを押し出すよう提案し支援した。 

 またさらに、D ‒ Bizで以前支援した三大モール(楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング)攻略の専門家とのマッチングも提案した。 

 過去に専門家を入れてデジタルマーケティングに取り組んだものの、不発だったという中川さん。デジタルマーケティングに不信感を抱いていたが、この専門家とともに2〜3カ月ほど取り組んだところ、明らかに表情が明るくなった。一緒に仕事をする中でこの専門家の優秀さを理解した中川さんは、自身は商品作りに専念すればよいのだとビジョンが整理され、前向きになったのだ。 

 現在は鮮度という強みを維持しつつ、増加し続けている注文にどう対応していくべきかを支援しているところである。 

思いをとらえた施策が支援の本質ではないか 

2つの事例はともに、「手間をかける」ということが強みになった事例だ。生産性や目先の売上を向上させるようなノウハウばかり普及するいまだからこそ、穏和キッチンといとしごの事業が差別化できた。 

 中には生産性に執着する事業者もいる。だが小規模事業者や中小企業は大企業とは違い、リソースが限られる。非生産的だから切り捨てるという経営判断が、そもそも不可能なことのほうが多い。 

 だからこそ、結局は事業に対する思いが左右するのだ。 

 穏和キッチンについていえば、藤本さんが元々持っていた美しい思いを発信する手伝いをしたに過ぎない。 

 いとしごの中川さんについても、強みの明確化と専門家とのマッチングをしただけで、カギは中川さんのマインドが前向きになったところにある。 

 この2つの事例をとおして私は、「正直は最大の戦略である」という言葉をかみしめた。近視眼的な策を弄するよりも、事業者の思いをとらえた支援こそが、末永く自走する強いビジネスを生むのだと信じている。 (了)